特定技能制度を利用して外国人材を受け入れる企業にとって、「渡航費は企業が負担すべきなのか」という点は、初期対応の重要な検討事項です。制度上の義務か任意かが分かりにくく、また候補者との認識のズレが後のトラブルに発展するケースもあります。本記事では、制度上のガイドライン(運用要領)に基づいた公的見解をもとに、費用負担の原則や渡航費の内訳、実務での一般的な対応、注意すべき契約の取り扱いなどをわかりやすく解説します。外国人材との信頼関係を築くために、適切な費用対応を考えていきましょう。
目次
特定技能制度における費用負担の原則
特定技能制度における渡航費の負担は、「法的義務」ではなく、「推奨」にとどまっています。特定技能の運用要領では、「1号特定技能外国人の送出しに必要な費用(渡航費、語学・技能の教育費など)については、所属機関が全部または一部を負担することが推奨される」とされています。
このため、企業がすべての費用を負担しなければならないわけではありませんが、外国人材の経済的負担を軽減し、受け入れのスムーズな進行を図る上では、企業側の負担が望ましいとされています。
また、費用に関するガイドラインは送出国ごとに異なり、特に一部の国では「認定送出機関を通すこと」や「費用上限」などの規定がある場合があります。該当国の送出しルールも併せて確認することが求められます。
さらに、渡航準備費用や生活立ち上げ費用などについては、企業が貸し付けることも認められています。ただし、その返済が労働法令違反とならないよう、契約方法や返済条件には十分な注意が必要です。
渡航費に含まれる具体的な費用項目とは
「渡航費」と言っても、その中身は多岐にわたります。受け入れ企業としては、どの費用が対象となるかを明確に把握し、事前に合意を取っておく必要があります。主に以下のような費用が想定されます。
- 航空券(出発国から日本までの片道分)
- 空港税・燃油サーチャージ
- ビザ申請費用・在留資格認定証明書交付手数料
- 渡航前の健康診断費用
- 海外旅行保険(初期のみ)
これらはすべて「来日準備費用」として位置づけられ、多くの企業では一部もしくは全額を負担しているのが実情です。ただし、項目によっては本人負担も制度上可能ですが、「自由意思に基づく書面での同意」が絶対条件です。
また、渡航に関する費用は変動しやすく、時期や送出国によって追加費用(PCR検査や送迎費など)が発生するケースもあるため、支援機関と連携しながら総額を見積もることが重要です。
実務上の企業・候補者の負担例
実務上は、企業ごとに費用負担のスタンスが異なります。以下は実際に多く見られるパターンです。
① 全額企業負担
航空券・ビザ・健康診断・保険など全ての渡航関連費用を企業が負担するケースです。人材獲得競争の激しい業界や、採用ブランディングを重視する企業に多い形態です。
② 一部負担(企業と本人で分担)
たとえば航空券は企業負担、ビザ申請費用は本人負担など、項目ごとに分担を定めるパターンです。バランスを取りながら制度を遵守しやすい方法です。
③ 一時的に本人負担→企業が補填(貸付など)
来日前に本人が立て替え、来日後に手当支給や貸付返済で補填する方法もあります。この場合は「労働条件通知書」や「貸付契約書」に明記し、合法的な運用が求められます。
制度上、費用の全部または一部を企業が負担することが推奨されており、候補者の不安を取り除く意味でも、企業側の積極的な配慮が重要です。
費用負担をめぐるトラブルと予防策
費用負担の取り扱いが曖昧なままだと、トラブルが発生しやすくなります。実際、「聞いていた話と違う」「不明瞭な天引きがあった」といった事例は多く、企業の信用を損ねる原因にもなりかねません。
このようなトラブルを防ぐために、企業として押さえておきたいポイントは以下の3つです。
- 事前説明を丁寧に行う
候補者の母語または理解できる言語で、費用項目と負担の有無を明確に伝えることが大切です。 - 費用負担内容を契約書類に明記する
労働条件通知書や雇用契約書、貸付契約書などに負担額・支払時期・補填方法などを具体的に記載します。 - 費用明細を提示する
実費の明細書を提示し、本人が内容を理解したうえで署名することで、後の誤解や紛争を防げます。
登録支援機関を活用する場合は、支援内容に費用説明も含まれているかを確認し、企業主導での管理を徹底しましょう。
書面で明確化すべき契約内容と注意点
費用に関する誤解やトラブルを防ぐには、契約書での明記が不可欠です。特に以下の点を明文化しておくことをおすすめします。
- 費用の内訳と金額(例:航空券代○円、ビザ費用○円)
- 負担者(企業または本人)とその理由
- 支払方法と時期(企業負担・立替・貸与・補填など)
- 本人の自由意思による合意と署名
貸付による支援を行う場合は、「貸付契約書」として独立した書類を作成し、返済方法や条件を明確にしておきましょう。
給与からの控除を行う場合には、労基法の定める「賃金控除に関する協定」が必要となります。これがないまま控除を行うと違法となるため注意が必要です。
外国人材と信頼関係を築くためには、「約束を守る姿勢」と「透明な契約」が何より重要です。
まとめ
特定技能外国人の渡航費用負担については、制度上「企業が全部または一部を負担することが推奨される」というのが公的な立場です。義務ではないものの、実務では企業が一定の費用を負担するケースが多く、信頼関係の構築や円滑な受け入れのために有効です。
一方で、項目によっては本人負担や貸付による対応も可能ですが、それには「書面による明確な合意」と「労働法令の遵守」が前提条件です。契約書類の整備と事前説明をしっかり行うことで、トラブルの予防につながります。
今後の人材確保・育成を見据えて、制度理解と運用体制の見直しを進めることが、人事・採用担当者の重要な役割です。
Man to Man株式会社のLink Asiaでは計画立案から候補者選出、配属~支援までワンストップで受入企業での外国人雇用をサポートできます。渡航費用の負担についてのほかにも「こういうときはどうするの?」というような質問や、制度について不明な点や対応で悩んでいることなどあれば気軽にお問合せください。
参考サイト
特定技能制度に関するQ&A | 出入国在留管理庁
※Q81