特定技能制度の活用が進む中、建設分野では「JAC(建設特定技能受入協議会)」への加入が他業種と異なり義務化されている点に注意が必要です。人手不足を背景に、外国人材の雇用を検討する企業も増えていますが、JAC制度は受け入れの前提条件となっており、その仕組みや役割、費用、社内体制への影響まで正確に把握しておかなければなりません。
本記事では、JACの基本情報から加入時の実務ポイント、最新動向への備えまでをわかりやすく解説し、企業の人事担当者がスムーズに特定技能外国人を受け入れるための実践的なヒントをお届けします。
建設分野における受け入れ要件
建設分野で特定技能外国人を雇用するには、国が定めた固有の受け入れ基準を満たす必要があります。まず第一に、対象となる作業分野が「型枠施工」「鉄筋施工」「左官」「とび」「土工」「配管」「内装仕上げ」など、国土交通省が定める特定の作業種別であることが条件です。これらは建設業における人手不足が特に深刻とされる領域であり、一定の技能と実務能力が必要とされます。
また、建設キャリアアップシステム(CCUS)への登録が求められます。これは、技能や就労履歴を可視化し、外国人材のキャリア管理を支援する仕組みであり、特定技能外国人の技能レベルを適切に評価するために不可欠です。
さらに、最も重要な要件として「JAC(建設特定技能受入協議会)」への加入があります。JACは、外国人材の就労環境や育成状況をモニタリングし、業界全体の健全な受け入れ体制を維持するために設立された協議会です。すべての受け入れ企業はJACに加入し、適正な管理と報告義務を果たさなければなりません。
加えて、就労計画書の提出や日本語指導、生活支援といったソフト面での体制整備も要件に含まれており、人材の受け入れにとどまらず「育成」と「定着」まで含めた支援が求められます。
JACと他分野の違いとは?
特定技能制度は、16の産業分野において外国人労働者の受け入れを可能にしていますが、その中でも建設分野は最も制度的な管理が厳しい領域の一つです。他分野では業界団体への加入は努力義務にとどまるケースが多いのに対し、建設分野ではJACへの加入が法律上の「義務」として明確に定められています。
この違いの背景には、建設業の多重下請け構造や、安全・技能面のリスク、現場ごとの管理の難しさがあります。外国人材が安心して就労できる環境を整えるには、業界全体での監督と情報共有が不可欠であり、その役割をJACが担っているのです。
JACに加入することで、企業は技能水準や就労状況に関する報告義務を負い、定期的なモニタリングを受けることになります。また、教育訓練や生活支援、日本語能力の強化など、受け入れ企業に求められる支援内容も明文化されており、実質的に「育成機関」としての責任も担うことになります。
一方で、JACに加入することで得られるサポートもあります。例えば、制度運用に関する最新情報の提供や、トラブル対応の相談窓口、ガイドラインの提供など、単独の企業では対応が難しい部分を補完してくれる体制が整っています。
このように、JACは単なる形式的な制度ではなく、企業と外国人材の間に立つ「制度的な橋渡し役」として極めて重要な役割を果たしています。
JAC加入にかかる費用と負担
JACへの加入には、複数の費用が発生します。これらの費用は、「正会員(建設業者団体)」「正会員傘下(正会員団体に加入の受入企業・個人)」「賛助会員(正会員団体に加入していない受入企業・個人)」で異なりますが、年間ベースで数万円から数十万円に及ぶこともあります。
会員資格 | 費用 |
JAC正会員団体傘下の受入企業・個人 | 年会費:なし 受入負担金:1号特定技能外国人 12,500円/月 |
賛助会員(受入企業・個人) | 年会費:24万円 受入負担金:1号特定技能外国人 12,500円/月 |
正会員(建設業者団体) | 年会費:36万円 |
たとえば、JACの年会費は基本的に1法人単位で発生し、受け入れ人数が増えれば増えるほど運営協力金も比例して増加します。また、建設キャリアアップシステム(CCUS)への登録費用や、教育・研修にかかる外部委託費、日本語教材費、生活支援担当者の人件費なども、実質的なコストとして積み重なります。
さらに、制度運用のためには人的リソースの確保も必要です。月次・四半期ごとの報告資料の作成や、定期的なモニタリング対応、技能確認の面談調整など、専門的な知識が必要な業務も多く、人事・総務部門だけでは対応しきれないこともあります。
これらの負担を軽減するために、登録支援機関や外部コンサルタントを活用する企業も増えています。特に、初めての受け入れ企業は、外部の専門家と連携することで、制度運用をスムーズに進められる可能性が高くなります。
費用や負担がある一方で、制度に準拠することで監査リスクを回避し、安定的な人材確保が実現できるというメリットもあります。制度の意義を理解し、「コスト」ではなく「未来への投資」と捉えることが大切です。
加入時のポイントと社内体制整備
JACへの加入をスムーズに進めるには、事前準備が非常に重要です。まずは、自社が受け入れ対象業種に該当するかどうかを確認し、国土交通省のガイドラインやJACの加入要件を一つひとつクリアしていく必要があります。
必要な提出書類には、会社概要、事業所の実態がわかる資料、労働条件通知書、受け入れ計画書、技能実習の履歴(技能実習からの移行者の場合)などが含まれます。これらはすべて、外国人材の雇用状況を客観的に説明できるものとして整理することが求められます。
加えて、社内の受け入れ体制整備も不可欠です。外国人材の業務管理だけでなく、生活支援、教育支援、日本語指導といった日常サポートまで対応できる体制が必要です。具体的には、外国人材の担当者を明確にし、支援業務の役割分担を決めておくことが望ましいでしょう。
また、社内の他部署や現場担当者との連携も非常に重要です。建設現場では、安全教育や技能管理が直結するため、現場責任者も制度の概要を理解しておく必要があります。社内研修の実施やマニュアル作成、多言語での対応ツール整備も進めましょう。
このように、JAC加入は単なる書類提出だけでなく、組織としての「受け入れ力」が問われるプロセスでもあります。段階的に体制を整えながら、実効性のある受け入れ計画を策定していくことが成功のカギとなります。
制度変更への備えと情報収集法
特定技能制度は、時代の変化や建設業界の課題に応じて、見直しや変更が行われることがあります。たとえば、近年では特定技能の対象作業種の追加や、在留期間の延長に関する議論、技能評価試験の内容改定などが実施・検討されています。
こうした制度変更に迅速に対応するためには、正確でタイムリーな情報収集が必要不可欠です。まず確認すべきは、国土交通省の公式サイトやJACのポータルサイトです。これらでは最新の制度変更情報や、加入企業向けの通知、研修・説明会の案内が随時更新されています。
また、業界団体(例:建設業協会、外国人材協議会など)のメルマガや会報を購読することで、より実務に近い情報を得ることが可能です。加えて、制度に詳しい社会保険労務士や行政書士、外国人雇用の専門コンサルタントとも連携することで、自社の運用に即した助言を受けることができます。
社内においては、制度変更に応じて社内規定やマニュアルを随時アップデートし、現場・本社間での情報共有体制を整えることが求められます。突発的な変更に備え、柔軟な運用フローを整えておくことが、外国人材との信頼関係を築く上でも重要です。
変化の激しい制度環境下では、「情報を制する者が制度運用を制する」と言っても過言ではありません。常にアンテナを高く保ち、先を見据えた対応力が企業の競争力につながります。
まとめ
建設分野における特定技能外国人の受け入れにおいては、JACへの加入が制度上必須とされ、他業種に比べて厳格な制度運用が求められます。加入に伴う費用や実務負担は決して軽くはありませんが、それらを上回るメリットがあることも事実です。
具体的には、業界内での適正な雇用管理や、外国人材の定着率向上、制度変更への柔軟な対応といった観点から、JACの存在は非常に重要な意味を持ちます。
制度の複雑さに不安を感じる人事担当者も多いかと思いますが、段階的に準備を進め、必要に応じて外部支援も活用することで、安定的かつ持続可能な人材活用が可能になります。
今後ますます深刻化する建設業の人手不足に対応するためにも、制度の理解と適切な運用は企業成長の鍵となるでしょう。
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参考サイト
一般社団法人建設技能人材機構
https://jac-skill.or.jp/