2025年には、いわゆる「団塊の世代」約800万人が75歳以上となり、日本は本格的な超高齢化社会に突入します。労働力不足の深刻化は避けられず、今後の経済・社会構造にも大きな影響を与えると考えられています。
私自身はいわゆる団塊ジュニア世代にあたり、就職氷河期を経験してきました。1990年代後半から2000年代初頭にかけては新卒での就職が極めて困難でしたが、現在では状況が一変し、労働力人口の減少により多くの外国人労働者が私たちの生活の中に欠かせない存在となっています。
今回は1985年の「プラザ合意」以降、日本がどのように外国人労働者を受け入れてきたか、その政策の流れを振り返ります。
目次
1. 1985年:プラザ合意と円高不況
- 1985年のプラザ合意をきっかけに急速な円高が進み、日本の輸出産業は大きな打撃を受けました。この影響で日本企業は生産拠点の海外移転を加速させ、結果として国内での労働力不足が徐々に意識されるようになりました。
- 1983年には中曽根内閣のもと、「留学生10万人計画」が打ち出されました。これは、当時のフランスの留学生受け入れ状況を参考に、20世紀末までに日本国内の外国人留学生数を10万人に増やすことを目指した政策で、日本の国際化を象徴する取り組みでした。
2. 1990年:入管法改正と日系人の受け入れ
- 1990年には出入国管理及び難民認定法が改正され、日系ブラジル人・ペルー人など、日本にルーツを持つ外国人に対して「定住者」ビザが発給されるようになりました。この在留資格には原則的に就労制限がなく、製造業を中心に多くの日系人が労働市場に参入しました。
3. 1993年:技能実習制度の導入
- 1993年には、途上国の人材を対象とした「技能実習制度」が創設されました。この制度は技術移転を目的とし、日本で技能を習得した実習生が母国の発展に貢献することが期待されていました。しかし実際には、労働力不足を補う実質的な労働者としての受け入れが進み、労働条件の問題や人権侵害といった課題が指摘されるようになります。この構造的な問題は、現在まで続いています。
4. 2008年:リーマンショックと外国人労働者政策の見直し
- 2008年のリーマンショックは、日本の製造業にも大きな打撃を与え、日系人労働者が大量に職を失い、帰国を余儀なくされました。この経験から、外国人労働者の雇用の安定性や、日本経済の外国人依存のあり方が社会的に議論されるようになりました。
- 同年、福田内閣により「留学生30万人計画」が策定されました。これは、先の10万人計画を引き継ぎ、日本をより開かれた社会へと発展させるために、2020年までに外国人留学生数を30万人に拡大することを目指した政策です。
5. 2012年:経済再生と外国人材の拡大
- 安倍政権下では「観光立国政策」や「高度外国人材ポイント制度」などが導入され、外国人の受け入れが一段と加速しました。また、技能実習制度の対象分野も拡大され、農業・介護などの人手不足分野への人材確保が図られるようになりました。
6. 2018年:特定技能制度の創設
- 2019年4月、改正出入国管理法(改正入管法)が施行され、新たに「特定技能」制度が創設されました。これにより14の特定産業分野において即戦力となる外国人労働者が「特定技能1号」として受け入れられ、建設・介護・飲食などの現場でその姿が一般的になりました。この制度は、日本がこれまでの「実習生」中心の受け入れから、「労働者」としての受け入れへと大きく舵を切る転換点といえます。
7. 2021年:外国人材受け入れのさらなる拡大議論
- 新型コロナウイルスの影響で、一部の産業で外国人労働者が不足する事態となり、入国制限が緩和されるとともに外国人労働者受け入れの再拡大が求められるようになりました。
- 「特定技能2号」の制度拡充や技能実習制度の見直しが政府内で検討され、特定分野での長期的な在留が可能な仕組みが模索されました。
8. 2023年以降:移民政策の再検討と定住促進
- 1993年に始まった技能実習制度は30年経った今、技能実習制度と特定技能制度を一本化し、より実態に即した形で外国人労働者を受け入れる新制度「育成就労制度」の方向性が打ち出されました。また、特定技能についても2024年、新たな対象分野に「自動車運送業」「鉄道」「林業」「木材産業」が追加され、より幅広い分野で活躍が期待されるようになっています。
今後に向けて
これまでの歴史から見ても、新しい制度が始まる際に懸念されるのが、これまで(旧制度)の問題が解決されないまま新しい制度が始まってしまうことです。制度改革が間に合わないほど人手不足の問題が進んでいるとも言えますが、世間の注目度は高まっています。
またひとことに問題と言っても、外国人材の受け入れに関しては企業側の姿勢、つまり人権尊重や労働環境の整備といった課題もあれば、就労者本人の理解不足や不適応といった問題も存在します。私はまず、外国人就労者側の課題を「教育」という観点から改善し、よりよい共生社会の実現に向けた取り組みを行っていきたいと考えています。
本記事では、外国人材受け入れ政策の歴史を簡潔に振り返りました。今後は特定技能制度の最新情報や現場での取り組み事例なども紹介していきますので、ぜひご覧いただければ幸いです。