特定技能外国人を受け入れる企業にとって、社会保険への加入は避けて通れない重要な義務です。「外国人だから」「短期だから」といった理由で未加入のまま雇用してしまうと、行政指導や在留資格更新時のトラブルにつながる可能性もあります。
特定技能制度は、外国人を「労働者」として雇用契約に基づき受け入れる制度です。そのため、社会保険の取り扱いも日本人と同じ基準で行う必要があります。
本記事では、特定技能外国人の社会保険加入に関する基本的な考え方と、企業が押さえるべき実務上のポイントをわかりやすく整理します。
目次
特定技能と社会保険の関係とは?
特定技能外国人は、日本の企業と雇用契約を結ぶ「労働者」です。
したがって、社会保険(健康保険・厚生年金保険・雇用保険など)への加入義務が発生します。
ここで注意したいのは、技能実習制度との違いです。
技能実習生は「学びながら働く」という位置づけですが、特定技能は企業の即戦力として雇用契約を締結するため、社会保険の適用対象は完全に日本人社員と同等になります。
出入国在留管理庁も、
「特定技能外国人は、社会保険制度の適用対象となる労働者として受け入れることを前提とする」
と明記しています。
つまり、特定技能の雇用では、企業が社会保険加入を怠ることは法令違反にあたる可能性があります。
特定技能外国人が加入すべき3つの社会保険
特定技能外国人が加入すべき社会保険は、「健康保険」「厚生年金保険」「介護保険(40歳以上)」の3つです。
これらはいずれも「社会保険」と呼ばれ、企業と本人が保険料を負担しあうことで、
生活の安定や将来の保障を支える仕組みです。
社会保険の種類と内容
| 保険の種類 | 主な目的・保障内容 | 負担割合(企業/本人) |
|---|---|---|
| 健康保険 | 病気・けが・出産・死亡時などに医療費や給付金を支給 | 約50%ずつ |
| 厚生年金保険 | 老齢・障害・死亡などの際に年金を給付 | 約50%ずつ |
| 介護保険(40歳以上) | 介護が必要になったときの費用を支援 | 約50%ずつ(40歳到達時から徴収) |
外国人労働者が加入をためらう理由と脱退一時金
特定技能外国人の中には、「保険料の負担が大きく、手取りが減るため加入したくない」と考える方も少なくありません。しかし、健康保険・厚生年金保険は日本で働く労働者にとって法的に義務づけられた制度であり、企業側も加入手続きを行う責任があります。
とくに厚生年金保険には、外国籍労働者が帰国後に利用できる「脱退一時金制度」という仕組みがあります。
厚生年金保険の加入期間が6か月以上ある外国人労働者が、
帰国後に年金受給資格を満たさない場合、
日本年金機構に申請することで「保険料の一部が一時金として払い戻される」制度です。詳細:日本年金機構「脱退一時金制度」
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/sonota-kyufu/dattai-ichiji/20150406.html
この制度を理解してもらうことで、「支払った分が無駄になるわけではない」という安心感を外国人本人にも持ってもらえます。
企業としては、採用・入社時にこの説明を行うことで、社会保険加入への理解促進と定着支援につなげることができます。
加入義務の判断基準と例外ケース
社会保険の加入は、在留資格ではなく雇用条件(労働契約の内容)によって判断されます。
そのため、外国人だからといって例外が認められることはありません。
加入が必要となる主な基準(2025年時点)
2024年以降の法改正により、社会保険の適用範囲が段階的に拡大されています。
現在、以下の条件をすべて満たす場合には、特定技能外国人も加入が義務となります。
- 週の所定労働時間が20時間以上あること
- 2か月を超えて雇用される見込みがあること
- 月額賃金が8.8万円以上(年収106万円相当)であること
- 勤務先が社会保険適用事業所であること
このうち「2か月超見込み」は、従来の「31日以上」よりも明確化された条件です。
短期雇用契約であっても、契約更新が想定される場合は「2か月超」とみなされ、加入義務が発生します。
特定技能外国人は多くがフルタイム勤務(週40時間)で雇用されるため、
実質的に全員が社会保険の加入対象となります。です。
雇用保険・労災保険の加入条件との違い
| 保険区分 | 加入条件 | 備考 |
|---|---|---|
| 雇用保険 | 週20時間以上勤務・31日以上の雇用見込み | 在留資格に関係なく対象(学生アルバイトを除く) |
| 労災保険 | 労働者を1人でも雇用していれば全員対象 | 雇用期間・勤務時間に関係なく強制適用 |
労災保険は、雇用形態や契約期間にかかわらず「労働者を1人でも雇えば強制適用」となります。
つまり、社会保険と雇用・労災保険は、加入条件が微妙に異なる点に注意が必要です。
加入が不要となる例外ケース
社会保険加入が不要となるのは、次のような限定的なケースのみです。
- 雇用期間が2か月以内で、延長の見込みがない短期契約
- 学生アルバイトなど、就学を主目的としている者
- 個人事業主・請負契約など、雇用契約に該当しない働き方
ただし、特定技能の在留資格は「継続的な就労」を前提とするため、
これらのケースに該当する外国人雇用は制度上ほとんど存在しません。
よくある勘違いと企業対応の注意点
特定技能外国人の社会保険加入をめぐって、現場では次のような誤解が多く見られます。
「外国人だから国民健康保険で十分」
→ 国民健康保険は個人加入の制度であり、企業が雇用契約を結ぶ場合は健康保険(協会けんぽ等)に加入する必要があります。
「短期間だから加入しなくていい」
→ 雇用期間が31日以上見込まれる場合は加入が必要です。
特定技能は在留資格上「継続雇用」を前提としているため、短期免除はほぼ該当しません。
「社会保険料は本人全額負担」
→ 保険料は企業と本人が折半(労災を除く)。給与明細や雇用契約書に明確に記載する必要があります。
企業対応のポイント
- 採用時に社会保険加入を説明し、給与明細で控除内容を明示
- 外国人本人に保険証の使い方や給付内容を説明(母語資料の活用も有効)
- 転職・在留資格更新の際に、社会保険加入履歴を正しく引き継ぐ
社会保険未加入が招くリスクと正しい対応
社会保険未加入は、企業・外国人双方に大きな影響を及ぼします。
想定されるリスク
- 行政指導や企業名公表(厚生労働省の調査対象)
- 在留資格更新時に不許可となる可能性(入管庁の確認事項)
- 労働トラブルの発生リスク(未加入期間の給与請求・損害賠償など)
外国人本人にとっても、病気・失業・老後などのリスクを補償する制度が使えなくなり、結果として「安心して働けない」状態につながります。
正しい対応
- 雇用契約を締結した時点で社会保険加入を申請
- 保険証の発行後、利用方法を説明
- 在留更新時に保険証コピー・加入履歴を提出
社会保険への適正加入は、外国人材の生活の安定と企業の信頼性を守るための基本です。制度を「負担」ではなく「安心の仕組み」として捉えることが重要です。
まとめ
特定技能外国人も日本人労働者と同様に、社会保険への加入が義務づけられています。
社会保険は、企業と働く人の双方を守る制度であり、正しく加入・説明・控除を行うことで、外国人材の安心と定着につながります。
今後、雇用保険・労災保険・介護保険などの個別制度については、
それぞれの仕組みや手続きの詳細を別の記事で解説していきます。
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