外国人との共生社会へ向けた最新政府方針を解説

外国人材の活躍が拡大し、日本社会で暮らす外国人住民も年々増える中、政府は2025年11月、「外国人との秩序ある共生社会の実現」に向けた新たな指示を出しました

一部の外国人によるルール逸脱や違法行為に対し、国民が不安を感じている現状を踏まえ、政府は「排外主義とは一線を画しつつも、違法行為には毅然と対応する」という姿勢を明確にしています

この方針転換は、外国人材を受け入れる企業の実務にも直結します。本記事では、内閣総理大臣指示や有識者会議で示された重要ポイントを整理し、企業が押さえておくべき変更点を解説します。

政府が目指す「秩序ある共生社会」とは?

政府は、人口減少下において外国人材が必要不可欠であるとしつつも、共生社会の実現には「ルールの遵守」が大前提であるとしています 。

今回の指示では、以下の2点が大きな柱として掲げられました。

  • 既存ルールの遵守・各種制度の適正化:在留資格審査や社会保障制度の適正利用 。
  • 国土の適切な利用・管理:外国人による不動産取得の実態把握など 。

単に受け入れるだけでなく、「ルールを守る外国人が安心して活躍できる環境」を作ることが狙いです

  • 成人・子ども向け日本語教育の充実
  • 外国人相談体制の改善
  • 生活基盤形成のサポート
  • 不法就労・不法残留の防止

など、幅広い領域での取り組みを意味します。

今回の会議では、これらを踏まえた「重点施策」が5つの柱として示されました。本記事ではその中でも 企業への影響が大きい3点 を中心に整理します。

重点施策① 在留審査の適正化(不法就労・不法残留対策)

政府は今回、「不法滞在者ゼロプランの強力な推進」を掲げ、不法就労や不法残留(オーバーステイ)に対して、これまで以上に厳しい姿勢で臨む方針を示しました 。 背景には、刑法犯検挙件数に占める来日外国人の割合が、令和5年から2年連続で増加しているというデータがあり、治安に対する国民の不安を払拭する狙いがあります 。

具体的には、以下の3つの側面から対策が強化されます。

■(1)在留審査における「公的義務履行」の確認徹底
在留資格の変更や更新の審査において、納税状況や社会保険料の納付状況が厳正にチェックされます 。 また、医療費の不払いがある外国人に対して審査を厳格化することや、社会保険の未加入・未納を審査結果に適切に反映させる仕組みの検討も進められています 。 企業としては、外国人従業員の社会保険加入や住民税の特別徴収(給与天引き)を徹底することが、従業員のビザを守るための必須条件となります。

■(2)偽変造在留カード対策と取締りの強化
不法就労の温床となる「偽変造在留カード」への対策が強化されます 。 警察と入管庁が連携し、デジタル社会に対応した情報収集・分析を行うことで、不法滞在者の摘発や違反防止を強力に推進するとしています 。

雇用主には、採用時に在留カードのICチップ情報を専用アプリで読み取るなど、確実な本人確認が求められます。

■(3)送還の促進と「永住者」ガイドラインの策定
退去強制事由に該当する外国人に対しては、事案に応じた送還形態を充実させ、速やかな送還や自発的な出国を促します 。 また、「永住者」であっても、税金や社会保険料の未納などが続く場合には在留資格を取り消せるよう、要件の明確化やガイドラインの策定に向けた取り組みが進められます 。

重点施策② 日本語教育の充実(成人と子ども)

「言葉の壁」は、生活や就労における最大の課題です。政府は、すべての外国人が日本語を学べる環境整備を強力に進めるとしています。

特に今回は、国や自治体だけでなく、「企業」も巻き込んだ教育モデルの確立が明記されている点が重要です。

■成人(就労者)向け日本語教育の具体策

  • ICT教材・動画の活用
    生活場面に応じた日本語を学べるICT教材の開発や、生活オリエンテーション動画の活用が進められます 。時間や場所を選ばずに学べる環境が整うことで、働きながら学ぶ外国人材への支援がしやすくなります。
  • 「空白地域」の解消と地域教室の強化
    日本語教室がない地域(空白地域)を解消するための支援や、都道府県による総合的な体制づくりが進められます。
  • 企業との連携強化
    「企業等からの教育投資」により、質の高い教育を提供するモデルを確立することが目標に掲げられました 。

■子どもの学習支援の強化
「大人だけでなく、「外国人児童生徒への日本語指導・学習支援の充実」や「教育環境モデルの開発・横展開」も明記されており、家族帯同で来日する人材への安心材料となります 。

■企業への影響
これまで日本語教育は「本人任せ」や「ボランティア頼み」の側面がありましたが、今後は「企業が投資して育てる」という視点がより重要視されます。 社内でオンライン学習の時間を確保したり、地域の日本語教室と連携したりすることは、人材の定着だけでなく、企業の社会的評価(CSR)の向上にもつながるでしょう。

重点施策③ 手数料見直しと社会基盤の適正化

行政手続きや社会生活のルールに関しても、公平性を確保するための見直しが指示されました。

手数料の「国際水準」への引き上げ
資料には、査証(ビザ)手数料や在留許可手数料について、「主要国の水準等を踏まえた見直し」 を行うよう明記されています。 現状、日本の手数料は欧米諸国と比較して安価に設定されているケースが多く、今後「国際的な水準」に合わせて金額が引き上げられる可能性が高いと言えます。企業は、採用コストの変動に注視が必要です。

マイナンバーカード一体化とJESTA導入
中長期的な利便性向上と管理強化のため、マイナンバーカードと在留カードを一体化させる検討が進められています。また、短期滞在者向けには、入国前にウェブで申告を行う電子渡航認証制度(JESTA)の早期導入も検討されています。

「ただ乗り」を許さない社会基盤づくり
手数料以外にも、外国人が日本で暮らす上でのルール遵守が厳格化されます。

  • 医療費未払いへの対応
    医療費の不払いがある外国人に対しては、入国審査や在留審査を厳格に行う方針が示されました 。
  • 不動産取引の透明化
    「不動産登記時の国籍把握」や、外国資本による土地取得の実態把握が進められます 。
  • 観光公害(オーバーツーリズム)対策
    観光客のマナー違反対策の強化も盛り込まれています 。

これらは、ルールを守る外国人が不利益を被らないよう、社会全体の公平性を保つための措置です。

企業が押さえておくべき実務ポイント

今回の有識者会議は、日本社会として外国人とどう向き合うかを示す大きな方針転換ともいえる内容でした。 外国人雇用は「採用して終わり」ではなく、「コンプライアンス」と「定着支援」の両輪が求められる時代に入りました。

企業には、具体的に以下の3つの対応が求められます。

  1. 「公的義務」の徹底管理
    政府は在留審査において、納税や社会保険の納付状況を厳格に確認する方針を打ち出しました 。 従業員のビザ更新が不許可になるリスクを避けるためにも、会社として住民税の特別徴収(給与天引き)や社会保険加入を徹底管理することが、これまで以上に重要になります。
  2. 在留資格と業務内容の不一致防止
    「不法就労対策」や「在留資格の適正利用」が強化されます 。
    「技術・人文知識・国際業務」等の資格で働く従業員が、許可された範囲外の単純労働を行っていないかなど、現場での業務内容と在留資格の整合性を常に確認する必要があります。
  3. 「育成」への投資と定着支援
    今回の方針では、企業による日本語教育への投資が推奨されています 。 手数料の値上げ も予想される中、採用コストを無駄にしないためには「長期定着」が鍵となります。社内での日本語学習機会の提供や、生活相談体制の整備は、単なる福利厚生ではなく、「人材流出を防ぐための経営戦略」として重要度が増しています。

まとめ

政府の新しい方針は、外国人材の受入れを「拡大」しつつも、その質とルール遵守を「厳格化」するフェーズに入ったことを示しています。

特に「納税状況の厳格な確認」や「手数料の見直し」は、企業や外国人本人の負担に関わる部分です。正しい情報をいち早くキャッチし、社内規定や支援体制を見直すことが、安定した外国人雇用につながります。

Link Asiaでは、最新の法令に対応した受入れ体制の構築や、日本語教育・生活支援のサポートを行っております。ご不安な点があれば、ぜひお気軽にご相談ください。

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渡邉 圭史
人材ビジネス会社の一員として外国人雇用の推進に取り組んでいます。特定技能や技能実習制度、外国人労働者の受け入れについて、実務や日々の学びを通じて経験を積んでいます。このブログでは、外国人雇用に関する知識や最新情報、実際の現場で感じたことを分かりやすくお届けします。ぜひ気軽に読んでいただければと思います!