受入企業が行う義務的支援のポイントと注意点

受入企業が行う義務的支援のポイントと注意点

特定技能外国人を雇用する企業には、「義務的支援」と呼ばれる制度上の責任が発生します。
これは、外国人材が日本で安心して生活し、長く働き続けられるようにするためのサポート体制を構築・実施するもので、制度の根幹をなす要素の一つです。
とはいえ、企業がこれを自社で行うには相応の負担が伴い、実務や制度理解が不十分な場合にはリスクもあります。


本記事では、義務的支援の概要から、受入企業が負う業務内容、自社対応と委託の違い、支援体制整備のポイントまでを分かりやすく解説します。

義務的支援の概要と背景

特定技能制度は、2019年に施行された在留資格で、日本国内の人手不足を補うために創設されました。この制度においては、外国人材が安定して日本で働けるよう、受入れ企業には「義務的支援」を実施する責務が課せられています。
これは単なる雇用契約上の義務を超え、外国人の生活・労働環境を包括的に支援する制度設計となっています。

義務的支援の背景には、かつての技能実習制度で発生していた問題があります。たとえば、生活支援が不十分でトラブルに発展したケースや、日本語が不自由なまま孤立してしまう事例などです。こうした課題を反省し、特定技能では雇用主が責任を持って支援することが制度上の要件として明文化されました。

具体的には、住居の確保、生活に必要な契約のサポート、日本語学習の機会提供、相談窓口の設置など、合計で10項目の支援内容が定められています。
これらは形式的に実施するだけでなく、その支援内容を記録し、入管(出入国在留管理庁)へ報告する義務も生じるため、企業には継続的な体制整備が求められます。

義務的支援は、外国人材の雇用が単なる労働力補充ではなく、人材の受入れと共生の実現を意識した制度であることを象徴しています。
そのため、受入企業は制度の趣旨を理解したうえで、長期的な視点で支援に取り組む必要があります。

企業が支援を自社対応する場合の負担

義務的支援を企業が自社で対応する場合、制度に定められた10項目の支援内容をすべて自ら実施しなければなりません。
これは単なる初期対応にとどまらず、継続的な支援、記録、そして出入国在留管理庁(入管)への定期報告まで含まれる、非常に手間のかかる業務です。

以下に、義務的支援の具体的な支援項目を「受入れ時」「就労中」に分けて整理します。

【受入れ時の支援内容】

①事前ガイダンスの実施(雇用条件や生活ルールの説明)

②出入国時の送迎(空港や駅などから住居・職場まで)

③住居の確保支援(契約手続きや保証人手配など)

④ライフライン契約支援(銀行口座、携帯電話、公共料金など)

【就労中の支援内容】

⑤生活オリエンテーション(交通、ゴミ出し、病院の使い方など)

⑥日本語学習の機会提供

⑦相談・苦情対応窓口の設置

⑧定期的な面談と職場訪問(3カ月ごとなど)

⑨転職・帰国支援(必要な場合)

⑩支援実施の記録と、入管への定期報告書提出

このように、企業は生活面の支援から行政への報告まで一貫して担うことになります。とくに報告書の様式は形式が厳格に定められており、記載内容の不備は行政指導の対象になります。
これに対応するためには、制度を正しく理解し、支援内容を記録・管理する体制が必要です。

さらに、外国人とのやりとりには多言語対応が求められます。通訳を常駐させるのは難しく、日常会話レベルの言語力が社内になければ、正確な支援や意思疎通が困難になります。
こうした背景から、自社での対応には相当な労力と専門的知識が必要であり、人的・時間的リソースの確保が不可欠です。

特定技能の相談記録書とは?企業の義務を解説
特定技能の生活オリエンテーションとは?

登録支援機関に委託する場合の流れとメリット

義務的支援は、登録支援機関に委託することも可能です。
登録支援機関とは、法務省(出入国在留管理庁)に登録された民間事業者・団体で、外国人材に対する支援を専門的に代行できる資格を持っています。
企業が自社で対応できない場合、この制度を活用することで支援の質を担保しながら負担を軽減できます。

委託の流れは以下のようになります:

委託の流れ

・支援業務を委託するための契約を締結

・登録支援機関が企業と連携して支援計画を作成

・受入開始と同時に支援の実施

・支援内容の記録・管理と、入管への報告対応も支援機関が担当

登録支援機関の大きなメリットは、「制度に精通した専門スタッフによる対応」「多言語支援体制の整備」「過去の実績に基づく支援ノウハウ」です。
初めて外国人材を受け入れる企業や、支援に不安を感じる企業にとっては、非常に心強いパートナーとなります。

また、委託費用は発生するものの、支援業務を外部に任せることで社内業務の負担が大幅に軽減されます。とくに、書類提出や定期的な報告業務まで代行してもらえる点は、事務負担の多い企業にとって大きなメリットといえるでしょう。

自社対応と委託の比較ポイント

義務的支援を自社で対応するか、それとも登録支援機関に委託するかは、企業の規模やリソースに応じて慎重に検討すべきです。以下の比較ポイントを参考に、適切な体制を判断しましょう。

【1. コスト面】
自社対応では直接的な費用は発生しませんが、人的コスト・時間的コストが大きく、専門知識の習得や社内体制の整備が必要です。一方で、登録支援機関に委託する場合は委託料かかりますが、支援の実務や報告業務を丸ごと任せることができます。

【2. 支援の質】
制度や文化に不慣れな企業が支援を行うと、対応が不十分になりやすく、トラブルを招くリスクもあります。登録支援機関であれば、専門スタッフが実績に基づいた支援を提供でき、外国人材の定着率にも良い影響を与えます。

【3. 言語対応】
多言語対応が必要な場面も多く、ベトナム語・インドネシア語・ミャンマー語などに対応できる体制があるかが重要です。支援機関は多くの場合、対応可能な通訳スタッフや翻訳資料を備えており、安心して任せられます。

【4. 継続性とトラブル対応】
支援は一度で終わるものではなく、就労中も継続的に行う必要があります。支援記録の保存や定期的な報告体制が整っているか、自社での継続的な対応が難しい場合は委託が現実的です。

実務上の注意点と支援体制の整え方

義務的支援を適切に実施するためには、単に制度を知っているだけでは不十分です。
実務において注意すべきポイントや、社内での支援体制の構築も含めて、継続的な管理が求められます。

まず、支援計画書は入管提出用の重要な文書であり、形式や内容に不備があると受理されない可能性があります。支援内容は具体的に記載し、「誰が・いつ・どこで・どのように実施するか」を明示することが必要です。

さらに、支援の実施後には記録を残し、それをもとに定期的に入管へ報告する義務もあります。
支援を実施したことを証明するためのエビデンス(面談記録、オリエン資料など)も保管しておく必要があります。これを怠ると、最悪の場合は在留資格の更新が認められなくなる恐れもあります。

支援体制を社内で整える際は、以下のような取り組みが推奨されます。

  • 支援担当者の配置と役割分担の明確化
  • 社内研修による制度理解の浸透
  • 多言語対応ツール・外部通訳との連携
  • 支援履歴や相談記録のシステム化
  • 法改正やガイドライン改定の情報収集ルートの確保

適切な体制を構築すれば、自社での対応も不可能ではありません。ただし、初めて受け入れる企業や人材リソースが限られている企業では、登録支援機関の活用も選択肢として検討すべきです。

まとめ

特定技能外国人を受け入れる企業には、義務的支援の実施が法律で義務づけられており、生活・就労支援から入管への報告まで多岐にわたる業務を担う必要があります。
自社で対応するには、制度理解、多言語対応、継続的な体制構築など、多くの準備が求められます

一方で、登録支援機関に委託すれば、専門知識と経験に基づいた支援を受けられるため、初めて受け入れる企業や体制が整っていない企業にとっては、現実的かつ安心できる選択肢といえるでしょう。大切なのは、外国人材が日本で安心して働ける環境を企業として整え、長期的な信頼関係を築くことです。
義務的支援を正しく理解し、自社に最適な体制を選択することが、受け入れ成功の第一歩となります。

Man to Man株式会社では様々な言語に対応できるよう、紹介人材と同じ国籍のサポートスタッフが在籍しております。また、入管への書類業務や手順に精通したスタッフも在籍しており、初めて外国籍スタッフを受け入れる企業の不安解消を心掛けたサービスを提供しております。
特定技能の受け入れに関して不安な点や相談したいことなど御座いましたら、まずは気軽にご相談ください。

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渡邉 圭史
人材ビジネス会社の一員として外国人雇用の推進に取り組んでいます。特定技能や技能実習制度、外国人労働者の受け入れについて、実務や日々の学びを通じて経験を積んでいます。このブログでは、外国人雇用に関する知識や最新情報、実際の現場で感じたことを分かりやすくお届けします。ぜひ気軽に読んでいただければと思います!