近年、日本の製造業はその高い技術力と生産性で世界的に知られていますが、急速に進行する高齢化社会に伴い労働力不足が深刻化しています。
特に、製造業における現場作業や技術的なサポートを担う労働者の確保は企業運営において大きな課題となっています。
このような状況を受けて、特定技能という新しい在留資格が設けられました。
本記事では、製造業における特定技能ビザを持つ外国人労働者の採用方法や注意点などを詳しく解説します。
目次
特定技能制度とは?
特定技能制度は、日本国内で外国人労働者を受け入れるための在留資格であり2019年4月に施行されました。
この制度は、特定の分野において高度な技能を有する外国人を日本に呼び寄せ、労働力不足を補うことを目的としています。
特定技能は、以下の2つのカテゴリに分かれています。
より高度な技能を持つ外国人を対象としたビザ。定住が可能で家族の帯同も認められますが、対象となる職種は限られています。
製造業では、特定技能1号ビザを活用した外国人の採用が主流となっており、業務に必要な技能や知識が試験によって証明されビザが交付されます。
製造業における特定技能外国人の受け入れが進む中、2024年に特定技能1号の対象となる業務区分として、3区分から7区分に拡大されました。
このように、さまざまな分野で外国人材を積極的に採用する動きが強まっています。
特定技能制度についてより詳しい内容については下記の記事をご覧ください。
業務区分について
上記でも述べたように、日本の製造業の人手不足を補うために多くの外国人材が活躍できる場が広がっています。
製造業では業務区分が10区分となりましたが、各区分について解説します。
さまざまなスキルが求められ、外国人材が担う役割も多岐に渡ります。
・機械金属加工 | ・電気電子機器組立て |
・金属表面処理 | ・紙器・段ボール箱製造 |
・コンクリート製品製造 | ・陶磁器製品製造 |
・紡織製品製造 | ・縫製 |
・RPF製造 | ・印刷・製本 |
各分野での主な仕事内容を理解することで、企業は自社に適した外国人材を採用しやすくなります。
業務区分ごとの業務内容の解説
上記で触れた業務区分について、それぞれの仕事内容を詳細に解説いたします。
各業務区分ごとに求められるスキルや実務内容を掘り下げてご紹介します。
機械金属加工
機械金属加工は、金属や合金を加工して、製品の部品を作成する重要な業務です。
この分野では、特に精密機械や自動車部品・建設機械部品などさまざまな金属部品を製造します。
【主な作業内容】
切削加工→金属部品を指定の形に削り出します。旋盤やフライス盤を用いて、高精度な加工を行います。
溶接→部品を溶接して組み立てる作業です。例えば、鉄鋼やアルミニウムの溶接などが求められます。
機械組立→金属加工した部品を組み立てて、最終製品に仕上げます。
この業務には、高い精度が求められ、加工機械を適切に操作できる技術が必要です。外国人労働者には、機械の操作や金属の取り扱いに関する知識が求められます。
電気電子機器組立て
電気電子機器組立ての業務は、家電製品やコンピュータ機器、電子機器などを組み立てる作業です。これらの製品は精密な部品や回路を組み合わせて作成するため、高度な技術と細かい作業が必要です。
【主な作業内容】
基板の組み立て→電子部品を基板に取り付け、回路を完成させます。
配線→電気機器の内部に配線を施し、電力を流すための準備をします。
動作確認→組み立て後、機器が正しく機能するかテストを行います。
外国人労働者には、電気・電子部品の取り扱いや組み立てに関する知識が求められます。また、作業指示書や図面を読み解く力も重要です。
金属表面処理
金属表面処理では、金属部品を保護したり、外観を改善したりするために、表面を処理する作業を行います。表面処理は、製品の耐久性や美観を向上させるために不可欠です。
【主な作業内容】
メッキ→金属の表面に金属の薄膜を被せる作業です。これにより、耐腐食性や耐摩耗性を向上させます。
塗装→金属部品に塗料を塗布し、外観を美しく仕上げます。また、塗装には防錆効果もあります。
酸洗い→金属表面の汚れや酸化物を除去する作業です。
表面処理業務には、化学薬品や高温設備を扱うため、安全対策を十分に講じることが重要です。
紙器・段ボール箱製造
紙器・段ボール箱製造は、製品を包装するための容器を作成する業務です。この業務は、商品を安全に届けるために非常に重要です。特に物流業界では、段ボール箱の需要が高いため、安定した製造体制が求められます。
【主な作業内容】
段ボールの製造→段ボールの材料を組み合わせて、適切なサイズや強度の箱を作ります。
印刷→箱にロゴや文字を印刷する作業です。製品のブランド力を高めるために重要です。
成型→作った段ボールを成型し、最終的な形に仕上げます。
この業務には、正確な計測や機械操作が必要です。また、段ボールの強度や形状に関する知識も求められます。
コンクリート製品製造
コンクリート製品製造では、コンクリートを使って建材やインフラ関連の製品を作ります。建築や土木の分野で使用される製品が多いため、強度や耐久性が非常に重要です。
【主な作業内容】
コンクリートの混合→適切な比率で原材料を混ぜ、コンクリートを製造します。
型枠作り→コンクリートを流し込むための型枠を作り、製品の形状を作り上げます。
仕上げ作業→成型したコンクリート製品の表面を仕上げ、強度を高めます。
コンクリート製品の製造は、重機や大型機械を使用することが多いため、安全管理が特に重要です。
陶磁器製品製造
陶磁器製品製造では、陶器や磁器の製品を製造します。これには、手作業での成型や焼成といった高度な技術が求められます。
【主な作業内容】
成型→粘土を用いて製品を成型します。手作業や機械を使って、形を整えます。
焼成→成型した製品を高温で焼き上げ、硬化させます。
釉薬塗布→焼き上がった製品に釉薬を塗り、美しい色合いを出します。
陶磁器製造業務では、伝統的な技術と近代的な技術の両方を駆使することが求められます。
紡織製品製造
紡織製品製造は、布や糸を使用してさまざまな製品を作り出す業務です。この分野では、織物や編物の技術が重要です。
【主な作業内容】
糸の紡績→糸を紡いで、織物や編物に使える形にします。
織物の製造→糸を使って織物を製造します。布の種類や品質に合わせた製造方法が求められます。
染色・加工→織物に色をつけたり、特殊な加工を施して、最終的な製品を仕上げます。
紡織業務には、高度な手作業と機械操作が求められます。
RPF製造(再生可能資源製造)
RPF(再生可能資源)製造は、廃棄物を再利用してエネルギーを生成する作業です。この分野では、環境に配慮した製造方法が重要となります。
【主な作業内容】
廃棄物の選別→使用済みの廃棄物を選別し、リサイクル可能なものを分けます。
処理作業→廃棄物を適切に処理し、再利用可能な資源に変換します。
再生可能資源の利用は、持続可能な社会に向けた重要な分野です。
印刷・製本
印刷・製本は、書籍や雑誌、広告物などを製作する業務です。この業務では、大量生産と精密な作業が求められます。
【主な作業内】
印刷→紙にインクを使って印刷し、デザインや内容を表現します。
製本→印刷物を組み合わせて、冊子や本として製本します。
印刷・製本業務では、機械操作や品質管理が非常に重要です。
縫製
縫製は、布や革などを縫い合わせて製品を作る業務です。衣服やカバン、家具の一部など、さまざまな製品が対象となります。
【主な作業内容】
布の裁断→型紙に従って布を裁断します。
縫い合わせ→部品を縫い合わせて、製品の形を作ります。
仕上げ作業→完成品の仕上げとして、ほつれや不具合を修正します。
縫製作業は、精密な技術と機械操作を要するため、熟練した技能が求められます。
機械金属加工には、「金属熱処理」「強化プラスチック成形」が電気電子機器組立てには「強化プラスチック成形」が2024年3月に対象となる産業分類が追加となりました。
工業製品製造分野における特定技能ビザの取得要件
特定技能ビザを取得するためには、外国人が以下の要件を満たす必要があります。
(1)技術的なスキル
工業製品分野で働く外国人労働者には、機械加工や組み立て・検査などの技術的なスキルが求められます。
これらのスキルは、企業の製造ラインで正確かつ効率的に作業を行うために不可欠です。
外国人労働者が特定技能1号で働くためには、過去の経験や技術に関する証明が求められる場合もあります。
また、現場でのトレーニングやOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)を提供することが、外国人労働者の能力を高めるために効果的です。
(2)日本語能力
特定技能1号における日本語能力の要件はN4レベル以上です。
しかし、工業製品分野では作業の指示や安全に関する注意喚起が日本語で行われるため、N3レベル以上の日本語能力を持つことが望ましいです。
特に、作業の指示書や図面を理解するためには、日本語の読み書き能力が重要となります。
(3)コミュニケーション能力
工業製品分野では、チームでの作業が一般的です。
そのため、他のスタッフと円滑にコミュニケーションを取る能力も求められます。
作業の進捗報告や問題点の共有など、情報をしっかりと伝える能力が重要です。
外国人材採用の流れ
外国人材の募集と面接
外国人を採用するためには、まず募集を行い面接を通じて適切な人材を選定します。
この際、日本語の能力や経験・意欲などをチェックすることが重要です。
外国人材の場合、面接に通訳を使うこともありますので事前にその点を確認しておきましょう。
日本語能力や技能の確認
採用候補者が日本語能力試験や技能試験を通過しているか、またはそれに相当する実務経験があるかを確認します。
即戦力として従事するために、業務に支障をきたさないよう日本語能力や職務に必要な技能レベルを確認することは重要となります。
在留資格の申請
適切な外国人材が決定したら、次に在留資格(特定技能1号)の申請を行います。
この申請は、外国人材が日本で合法的に働けるようにするために不可欠な手続きです。
申請には、企業が責任を持って必要書類を揃える必要があります。
研修と就業開始
在留資格が認定された後、外国人労働者は日本での研修を受けることが多いです。
日本の現場特有の文化やルール・必要な技術を学ぶことで、即戦力として活躍できるようになります。
その後、正式に業務が開始されます。
外国人労働者が職場に適応していく過程で、定期的にフォローアップを行います。
必要に応じて、日本語教育や業務に関するサポートを提供し、スムーズな就業環境を整えましょう。
外国人材の受け入れにおける必要なこと
(1)労働契約と条件の明確化
外国人労働者を採用する際は、労働契約書をしっかりと作成し給与・労働時間、・休暇などの労働条件を明確にすることが重要です。
特に外国人労働者の場合、日本の労働文化や契約内容に対する理解が異なる場合があるため説明を丁寧に行うことが大切です。
(2)日本語教育と研修の提供
日本語能力に不安がある外国人労働者には、日本語教育の支援が必要です。
特に製造業では、現場での指示や安全に関する日本語が重要となるため、事前に日本語研修を提供することが求められます。
(3)文化理解とサポート
日本の労働文化や生活習慣を理解するためのサポートを行うことも、外国人労働者がスムーズに仕事を進めるために重要です。
企業側は、文化の違いを尊重し、職場環境を整えることが求められます。
まとめ
特定技能1号ビザを活用した外国人材の採用は、工業製品製造分野における人手不足を解消するための有力な手段です。
採用の流れや求められるスキル、メリットについて理解を深めることで企業の生産性向上に繋げることができます。
当社の人材紹介サービスや支援管理サービスを活用することで、採用から業務の安定運営・外国人スタッフの定着までトータルでサポートいたします。お気軽にご相談ください。
参考サイト
工業製品製造業分野 | 出入国在留管理庁
基礎的な技能と日本語能力を持つ外国人を対象としたビザ。最大5年間の滞在が可能です。